Brush Up! 権利の変動篇

代理の過去問アーカイブス 平成16年・問2

表見代理(民法110条)の類推適用・無権代理の追認拒絶・無権代理と相続


所有の土地をの代理人として,との間で売買契約を締結した場合に関する次の記述のうち,民法の規定及び判例によれば,正しいものはどれか。(平成16年・問2)

1.「とが夫婦であり契約に関して何ら取り決めのない場合には,不動産売買はAB夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内にないとが考えていた場合も,本件売買契約は有効である。」

2.「が無権代理人である場合,に対して相当の期間を定めて,その期間内に追認するか否かを催告することができ,が期間内に確答をしない場合には,追認とみなされ本件売買契約は有効となる。」

3.「が無権代理人であっても,の死亡によりとともにを共同相続した場合には,が追認を拒絶していても,の相続分に相当する部分についての売買契約は,相続開始と同時に有効となる。」

4.「が無権代理人であって,の死亡によりが単独でを相続した場合には,は追認を拒絶できるが,の無権代理につき善意無過失であれば,に対して損害賠償を請求することができる。」

【正解】

× × ×

1.「とが夫婦であり契約に関して何ら取り決めのない場合には,不動産売買はAB夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内にないとが考えていた場合も,本件売買契約は有効である。」

【正解:×初出題

◆表見代理(民法110条)の類推適用

  (土地の所有者)
 |
 |夫婦
 ――― (相手方)
        「夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内にない」とは考えていた

夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは,他の一方は,これによって生じた債務について,連帯してその責に任ずる。但し,第三者に対し責に任じない旨を予告した場合はこの限りではない。(民法761条)

 判例では,日常家事については,夫婦相互間の代理権があるとしています。(最高裁・昭和44.12.18)また,夫婦の一方が日常家事の範囲を超える法律行為をした場合については,相手方において,その法律行為が日常家事に関する法律行為の範囲内にあると信じたことについて正当の理由があるときには,民法110条の表見代理(権限踰越)の規定が類推適用され,その契約は有効になります。(最高裁・昭和44.12.18)

 しかし,本肢では,は「この不動産売買はAB夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内にない」と考えているので,上記の判例の表見代理の類推適用は該当せず,本件売買契約は有効にはなりません。

●権限踰越の表見代理の出題歴
  (本人)
 |          
 (表見代理人)(相手方)

権限踰越の表見代理〔代理人が本人が与えた代理権の範囲を超えて代理行為を行った場合のことをいう。〕では,第三者にその権限があると信じる正当な理由があるときは,この代理行為の効果は本人に帰属して有効なものになる。(民法110条)

第三者にその権限があると信じる
正当な理由があるとき
 契約は有効
 (表見代理成立)
第三者にその権限があると信じる
正当な理由がないとき
 契約は
 本人に帰属しない

第三者というのは民法110条で使われている言葉で,判例では,民法110条の第三者とはこの代理行為での相手方を意味するとしています。

【出題歴】昭和51年・肢4昭和54年・肢2,肢4昭和60年平成6年・問4・肢2平成8年・問2・肢2平成14年・問2・肢2

●参考問題
1.「妻が夫の代理人として第三者とした法律行為は,妻が夫から特に代理権を与えられておらず,かつ,その法律行為が日常の家事に関するものでない場合であっても,第三者においてその行為がその夫婦の日常の家事に関する法律行為に属すると信ずるにつき正当の理由があるときは,夫に対して効力を生ずる。」(司法書士・平成6年・問4・ウ)

【正解:

2.「が無権代理人である場合,に対して相当の期間を定めて,その期間内に追認するか否かを催告することができ,が期間内に確答をしない場合には,追認とみなされ本件売買契約は有効となる。」

【正解:×平成9年・問1・肢3,

◆無権代理の追認拒絶

  (本人)←―――― 追認するか否かを催告・・・期間内に確答なし⇒追認拒絶
 |          
 (無権代理人)(相手方)

 無権代理行為の相手方は,無権代理について善意・悪意関係なく,本人の追認がない間は,本人に対して,相当な期間を定めて,追認するか否かを催告することができ,その期間内に確答がないときは,本人は追認拒絶したとみなされます。(民法114条)

 したがって,<本人が期間内に確答をしない場合には,追認とみなされ本件売買契約は有効となる。>とする本肢は誤りです。

3.「が無権代理人であっても,の死亡によりとともにを共同相続した場合には,が追認を拒絶していても,の相続分に相当する部分についての売買契約は,相続開始と同時に有効となる。」

【正解:×初出題

◆無権代理と相続(i)無権代理人が本人を共同相続した場合

      (本人)死亡
 ┌――|          
    (無権代理人)(相手方)
 共同相続

 判例では,無権代理の本人が死亡して,無権代理人が相続したときは,は無権代理人の資格(地位)と本人の相続人の資格が併存していると考えます。(判例では,本人の追認するか追認拒絶するか選択する資格もその相続人に承継されるとしています。)

 判例によれば,無権代理人がほかの相続人とともに本人を共同相続した場合は,被相続人(本人)の追認権は分割されずに,共同相続人全員が一致してはじめて行使できるとしています。(最高裁・平成5.1.21)

 共同相続人が追認を拒絶している限り,の相続分に相当する部分についても,のみでは追認できないことになるので,売買契約は有効にはなりません。<が追認を拒絶していても,の相続分に相当する部分についての売買契約は,相続開始と同時に有効となる>とする本肢は誤りです。

本肢では,ほかの共同相続人が追認を拒絶しているので,無権代理行為の効果は本人には帰属しないことになりますが,相手方は,無権代理について善意無過失ならば,無権代理人の責任を追及し,の選択により,履行または損害賠償を請求することができます。(民法117条)

無権代理人が本人を単独相続した場合本人の資格で追認拒絶することは信義則に反し許されないとする判例について,平成5年・問2・肢4に出題歴があります。

肢3,肢4については「問題を解く視点とKEY: 無権代理と相続」で触れていたので,1000本ノックをご覧になっていた方には難問ではなかったと思います。

●参考問題
1.「が,実父を代理する権限がないのに,の代理人と称してから金員を借り受けた。この事例において,が死亡し,の子と共にを相続した場合,が無権代理行為の追認を拒絶しているとしても,は,に対して,の相続分の限度で貸金の返還を請求できる。」(司法書士・平成13年・問3・ウ)

【正解:×

      (本人)死亡
 ┌――|          
    (無権代理人)(相手方)
 共同相続

 登場人物の配置が全く同じ。違うのは,宅建試験では「土地の売買」だったのがこの問題では「金銭消費貸借」,宅建試験では「ほかの共有者が追認を拒絶してもの相続分については契約は有効」であることの正誤を問い,この問題では「相手方はの相続分の限度で貸金の返還を請求できる」かの正誤を問う設定。

4.「が無権代理人であって,の死亡によりが単独でを相続した場合には,は追認を拒絶できるが,の無権代理につき善意無過失であれば,に対して損害賠償を請求することができる。」

【正解:初出題

◆無権代理と相続(ii)本人が無権代理人を相続した場合

  (本人)相続
 |          
 (無権代理人)(相手方)
 死亡

 無権代理人が死亡して,本人が無権代理人を相続した場合には,には,本人の資格と無権代理人の相続人の資格が併存します。(判例では,無権代理人の債務もその相続人に承継されることを認めています。)

 確かに,は,自分自身が無権代理行為をしたわけではないので,本人の資格によって追認を拒絶しても何ら信義に反するものではありませんが,無権代理人の資格も相続していることから,もし相手方無権代理について善意無過失ならばに対して無権代理人の責任を追及して,の選択により,履行または損害賠償を請求することができることになります。(最高裁・昭和48.7.3)

 したがって,本肢は正しい記述ということになります。

●参考問題
1.「本人が無権代理人を相続した場合であっても,無権代理行為の追認を拒絶したときは,本人は,無権代理人が相手方に対して負うべき履行または損害賠償の債務を相続することはない。」(司法書士・平成6年・問4・オ)

【正解:×相手方が無権代理について善意無過失ならば,無権代理人の責任を追及して,その選択により,履行または損害賠償を請求することができるので誤りです。


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